大阪高等裁判所 昭和24年(を)4268号 判決 1950年3月02日
被告人
伊藤春雄
外二名
主文
本件控訴は孰れも之を棄却する。
理由
弁護人植田広の控訴趣意第一点について(前略)。
弁護人は本件取引は隠退蔵物資又は統制橫流品の摘発が目的であつたので、被告人等に詐欺の犯意がないと主張するけれどもかりにこれはいわゆる隠退蔵物資又は統制橫流品であるために、私人の所持を禁ぜられているものであるとしてもそれがために詐欺罪の目的となり得ないものではない。刑法に於ける財物取罪の規定は人の財物に対する事実上の所持を保護せんとするものであつて、これを所持する者が法律上正当にこれを所持する権限を有するかどうかを問わず、たとい刑法上所持を禁ぜられている場合でも現実にこれを所持している事実がある以上社会の法的秩序を維持する必要からして物の所持という事実上の状態それ自体が独立の法益として保護せられ、みだりに不正の手段によつてこれを侵すことを許さない。而していやしくも人を欺罔しこれに原因してその人から自己に取得する権利のない財物を自己に交付させ之を不正に領得すれば詐欺罪を構成する。(後略)